舌下免疫療法とは
「舌下免疫療法(SLIT)」は、「アレルゲン免疫療法(減感作療法)」の一種です。アレルゲン免疫療法(減感作療法)とはアレルギーの原因となる物質(アレルゲン、抗原)を少しずつ体の中に取り込んで、体を徐々にアレルゲンに慣らして抗体を作る治療法で、その一種である舌下免疫療法は、アレルゲンが入った治療薬を舌の下にしばらく含んでから飲み込むことで毎日少しずつ抗体を作る方法です。
舌下免疫療法が開始された2014年までは、注射による「皮下免疫療法」がアレルゲン免疫療法(減感作療法)の主流でした。しかし、舌下免疫療法の方が簡単で継続しやすいため、結果的には高い治療効果が出るようになりました。
2024年現在にあるのは、次の症状の治療薬です。
- スギ花粉症(薬品名「シダキュア」)
- ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎(薬品名「アシテア」および「ミティキュア」)
※時期をずらして開始させることで、スギ、ダニ両方の治療を並行して行うこともできます。
舌下免疫療法の「優れている点」と「注意すべき点」
優れている点
- 免疫をつくる治療法のため、根本的な症状の改善が期待できます。
- 臨床試験の結果、約80%の方に効果があり、うち約60%の方は症状が緩和し、残りの約20%の方は症状がでなくなりました。
注意すべき点
- 臨床試験の結果では、効果がなかった方が約20%いました。
- 治療薬を3〜5年間の間、毎日飲み続ける必要があります。(1年程度治療して、効果がない方は治療中断を検討する場合があります。)
現在は軽微な副作用のみ報告されていますが、重い副作用が生じる可能性があります。(万が一に備えて、万全な備えで初期の処置を行います。詳細は後述の「副作用について」をご覧ください。)
舌下免疫療法を受けられない、注意が必要なケース
受けられないケース
- スギ花粉症、ダニのアレルギーではない
- 悪性腫瘍(癌)や免疫系の疾患をもっている
- 重い気管支喘息がある
注意が必要なケース
- 以前に、アレルゲンを使った治療や検査でアレルギー症状をおこしたことがある
- 対象以外のアレルゲンに対してであっても、反応性が高い
- 気管支喘息をもっている
- 妊娠、授乳中である
- 65歳以上である
- 抜歯や口の中の術後である、または口中に傷や炎症などがある
- 全身性ステロイド薬を投与されている
- 重篤な心疾患、肺疾患または高血圧症がある
- 非選択的β遮断薬、三環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI等)など、他に服用している薬がある
副作用について
主な副作用
現在まで、舌下免疫療法での重い副作用の発生は報告されていません。主な副作用として報告されているのは次の通りですが、ほとんどが軽く、一時的な症状です。ただし、もしこのような症状であっても、おさまらない場合にはすぐに受診してください。
- 頭が痛い
- 耳がかゆい
- 喉がかゆい
- 口の中の副作用(口内炎、舌の下の腫れ、口の中の腫れ)
など
(参考)重篤な副作用について
何度か触れているように、舌下免疫療法は微量のアレルゲンから少しずつ免疫力をつけていく方法であるため、これまで重い副作用は報告されていません。しかし、臨床検査の結果、きわめて稀ではありますが、アナフィラキシー、アナフィラキシーショックといった重い副作用が発生する可能性は否定できないとされています。
万が一に備え、あげられる3つのポイントは次の通りです。
ショック症状が出る可能性のあるとき
- 舌下免疫を始めた直後、およそ1か月の間
- 薬を飲んだ後、およそ30分以内
- アレルギーの原因物質(スギ花粉、ダニ)の飛散量が大量であるとき
救急車を呼ぶべきとき
- 脈拍が速い(頻脈)
- 脈拍が不規則(不整脈)
- 気が遠くなっている(血圧低下)
- 意識が混濁している(神経症状)
ショック症状の前兆の可能性がある症状
皮膚の症状
じんま疹、かゆみ、紅斑、皮膚が赤いなど全身の皮膚症状(薬の投与数分からおよそ30分以内の初発症状であることが多い)
呼吸器の症状
声がかれる、喉かゆみ、咳、胸のしめつけ感、呼吸困難、呼吸の音がゼーゼー・ヒューヒューする、チアノーゼなど
循環器の症状
脈拍が速くなる(頻脈)、脈拍が不規則になる(不整脈)、血圧の低下など
消化器の症状
胃痛が続く、嘔吐が続くなど
眼の症状
視覚異常、視野の狭窄など
神経の症状
不安、恐怖感、意識の混濁など
治療を検討する際に確認するべきこと
- 長期間(3年以上)の治療を受ける必要があります
- 舌の下に薬を1〜2分間保持した後飲み込むことを毎日継続する必要があります
- 4週間に1回、来院し、診察を受ける必要があります
すべての患者さんに効果を示すわけではないこと、効果があり、終了したケースでも、その後効果が弱まる可能性があること、アナフィラキシーなどの副作用がおこる可能性があることの3点を理解していただく必要があります。
治療の流れ
以下はスギ花粉症(シダキュア)を例にあげます。ダニアレルギーの場合も、同じ流れで治療を行います。
1通常の診察
治療ができるかどうかの確認をおこなうため、通常の診察を受けていただきます。
血液検査などで、スギ、ダニアレルギーのチェックを行います。
このとき、次の診療日(アレルゲンの初回投与をおこなう日)を決めます。
2アレルゲンの初回投与
血液検査の結果を確認後、当院にてアレルゲンの初回投与を行います。
投与後は、およそ30分の間、当院で経過を見ます。
初回投与の際は、詳しい説明、舌下免疫療法を受ける同意書の記入手続きもあるため、受付から会計終了まではおよそ1時間30分ほどかかります。
3はじめの14日間(増量期)
基本の投与方法は、1日1回、薬を舌の下に1〜2分間保持した後に飲み込むというものです。その後5分間はうがい、飲食はしないようにしてください。なお、この方法は、その後も変わることはありません。
増量期であるはじめの14日間は、体に慣れさせるため、投与するアレルゲンの量を少しずつ増量します。
1週目の1〜7日目に投与する薬はアレルゲンの量が少ないものです。毎日、決められた用量を舌下に投与し、少しずつ増量していきます。
2週目の8〜14日目も、1週目と同様、決められた用量を舌下に投与し、少しずつ体を慣れさせていきます。
415日目以降(維持期)
3週目以降は、1日1回、舌下に毎日同じ量の薬を投与し続けます。これを3〜5年間継続します。
診察と費用について
シダキュア5000によるスギ花粉の舌下免疫療法の負担額は大体以下のようになります。(3割負担の場合)
診察 | 診察費用 | 薬 |
---|---|---|
初回投与の日(14日分) | 660円(再診) | 1,060円 |
※アシテア300によるダニの舌下免疫療法のお薬の患者さんの負担額(3割負担30日分)は、2,630円、シダキュア5000+アシテア300によるスギ花粉とダニのデュアル舌下免疫療法の薬の患者さんの負担額(3割負担30日分)は、3,980円です。
※アレルギー性鼻炎免疫療法指導管理料が加算されたため、診察費用は2022年4月に改定されています。
※すべての薬の患者さん負担額は2022年6月現在の参考金額です。詳細はご利用の薬局にお問い合わせください。